このサイトでは、刀鍛冶「もぎんぽ」とムロフシがおりなす石炭のように黒いピカピカな「願い事は後二つだ。何がいい?」
もぎんぽを探せ!とてつもない怠け者で、彼がおやじから鍛冶場をついでからというものの、鎚打つ音も
ふいごの声も一向に聞こえて来やしません。三年もの間、土間にごろりと寝っころがって
は、「ああ、ひとりでに刀ができてはくれないものか」と呟くばかりでありました。
「なんとまあ酷い有様だもぎんぽよ」
いつものように左腕を枕に寝転がっていたもぎんぽの後ろから、キィキィとわめく声が
します。もぎんぽが寝返りを打ってそちらをみると、そこにはなんと、一匹のムロフシがい
たのでした。立ち上がった野ウサギほどの大きさをしたそのムロフシは、石炭のように黒い
尻尾を土間にぴしぴしと打ち据えて、もぎんぽを睨んでおりました。
「俺になにか用かムロフシよ」
もぎんぽが眠たげな声でのんびりと聞き返すと、ムロフシはクモの巣の張った炉を見やり、
「おまえさんの望みを叶えに来たのさ」と返しました。
「なんでまた」
「それが俺様の仕事だからさ」
そこでもぎんぽは起き上がり、あぐらをかいてあくび交じりにつぶやきました。
「そりゃあ、はあ、熱心なことだ」
ムロフシはいらいらと足踏みをしました。そして「ここらあたりで昼間っからごろごろし
ているのは、おまえさんっくらいなものさ」と憎々しげに吐き捨てて、「さあ、望みを言
え」と迫ります。
もぎんぽはうぅん、としばらく考えてこう言いました。
「とにかく楽がしたいんだ。一打ちでどんなものでもピカピカの刀になるような金槌が欲
しい」
ムロフシは軽蔑したまなざしでちらりともぎんぽを見やると、土間に落ちていた金槌をそ
の手でごしごしとこすり、もぎんぽに渡しました。
「ほらよ」
もぎんぽが錆びた金床にぼろぼろの刀を置き、金槌で叩くと、カチンッと涼しい音がし
て、ピカピカの刀がそこに現れました。三日月のように美しい、国中の騎士が欲しがりそ
うな刀です。
「こりゃいいや」
「願い事は後二つだ。何がいい?」
そこでまたもぎんぽは考え込みました。どこまでものんびりした男なのです。
「思いつかないや。また来てよ、その時までに考えておくから」
ムロフシはため息をついて、「わかった。それでは月が一巡りしたらまた来る」と言って
ぱちんと消えてしまいました。
一月後、ムロフシが再びもぎんぽの鍛冶場に訪れました。相変わらずもぎんぽは左腕を枕
にして土間に寝っころがっており、新しい刀など一本もありません。
「これはなんという有様だもぎんぽよ」
その声にもぎんぽはすぐ起き上がり、「待っていたのだよムロフシ」と声をかけました。
ムロフシは腕を組み、やっぱり尻尾をぴしぴしと土間に打ち付けています。
「金槌をくれてやっただろう。なぜ仕事をしない」
「そこなんだ。確かに一打ちで刀が出来るけれど、ふいごも吹かずに刀が出来ては怪しま
れる。この秘密の金槌を盗まれちゃたまらないからね。そこでだ、一吹きで日が暮れるま
で風を送り続けるふいごが欲しい」
ムロフシは心底呆れた顔でもぎんぽを見やると、土間に落ちていた埃だらけのふいごを手
に取り、ぷっと息を吹きかけました。
「ほらよ」
もぎんぽがふいごを使うと、びゅうびゅうと嵐のように風を送り始めました。炉の石炭
は独りでに燃え上がって太陽のようになり、ためしに刀をいれるとバターのように柔らか
くなりました。
「こりゃいいや」
喜ぶもぎんぽにムロフシは言いました。
「願い事は後一つだ。何がいい?」
そこでまたもぎんぽは考え込みました。どこまでもぼんやりした男なのです。
「思いつかないや。また来てよ、きっと不便があるから」
ムロフシはため息をついて、「わかった。それでは月が一巡りしたらまた来る」と言って
ぱちんと消えてしまいました。
さらに一月後、ムロフシが三度もぎんぽの鍛冶場に訪れました。ぴかぴかの刀が何本も壁
に立てかけられていましたが、もぎんぽはやはり左腕を枕にして土間に寝っころがってお
りました。
「もぎんぽよ、さしもの俺様もさっぱりわからぬぞ。どうしておまえさんは、あいも変わ
らず働いていないのだ」
その声を聞いてもぎんぽは起き上がりました。
「待っていたのだよムロフシ」
ぴょんぴょんと両足で土間を踏みつけて苛立つムロフシに、もぎんぽは言いました。
「刀は出来たが、売りに行くのが面倒くさいんだ。よく気がついて心の正しいお嫁さんが
欲しい」
ムロフシは哀れみのまなざしを向けると、煙を立てて一人の紳士に変身しました。そして
街に出かけ、たちまちのうちによく気のついて心の正しいお嫁さんを見つけてきました。
「こりゃいいや」
喜ぶもぎんぽにムロフシは、「ほらよ。これで最後だ。三年後に魂をいただきに来るから
待っていろ」と言ってぱちんと消えてしまいました。
もぎんぽのお嫁さんはとてもよく気がつく人でしたから、夫の打ったぴかぴかの刀をう
まく売りさばき、ご飯をこしらえ、家を整えました。張り合いの出来たもぎんぽも、例の
金槌とふいごでどんどん刀をこしらえ、あっという間に彼らはお金持ちになりました。
やがて三年がたとうとする頃、もぎんぽはため息を漏らすようになりました。お嫁さん
はよく気がつく人でしたから、赤ん坊をあやしながら彼に分けを聞きました。
「どうしたことでしょう。こんなに毎日が順調で、あかちゃんも出来たというのに、なに
が心配なんでしょう」
そこでもぎんぽは、お嫁さんをもらった経緯は伏せて、「とろろ」と取引をして金槌とふいご
を手に入れたことを相談しました。お嫁さんはさっと顔色が変わりましたが、すぐに気を
取り直し、こう言いました。
「それでしたらあなた、大丈夫ですよ。その金槌はなんでもぴかぴかの刀にしてしまえる
んでしょう? あなたがふいごを使って「とろろ」をおどかし、私が金槌を使って退治しましょ
う」
「ああ、ああ、なんていい考えだ。おまえはよく気がつくなあ」
こうして相談がまとまりました。そうとも知らず、ムロフシは四度、もぎんぽの鍛冶場に
現れました。そうして広くなった新しい鍛冶場を見渡して、嘲るように言いました。
「たいした有様じゃないかもぎんぽ。まじめに働くというのもいいもんだろう?」
もう、土間に寝っころがってなんかいなかったもぎんぽは、ふいごを手にしたままいつ
ものように返しました。
「待っていたのだよムロフシ」
そうして、腕を組んでにやにや笑っているムロフシめがけて、えいやっとふいごを吹きつ
けたのです。
「何をするもぎんぽ」
火のついてない石炭をも燃え上がらせる、嵐のようなふいごを受けて、ムロフシは立って
いるのがやっとです。そしてお嫁さんが近づき、「えいっ」と金槌を振り下ろすと、カチ
ンッと涼しい音がして、ムロフシはぴかぴかの刀になってしまいました。
「やったやった、ざまあみろ」
喜ぶもぎんぽでしたが、お嫁さんは彼にも金槌を振り下ろし、ぴかぴかの刀にしてしま
いました。心の正しいお嫁さんは、「とろろ」と取引した者も許さなかったのです。
こうして魔法の金槌とふいごを手に入れたお嫁さんは、それを持参金にして位の高い騎
士様と再婚し、子供と共に幸せに暮らしましたとさ。